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『東京奇譚集』を読んで

新潮社文庫の100冊2020|シビレル本⑩|限定プレミアムカバー[ボッコちゃん(星新一)/東京奇譚集(村上春樹)/不思議の国のアリス(ルイス・キャロル/著  矢川澄子/訳)] : 本とアニメと音楽とエトセトラ

今回は村上春樹さんの『東京奇譚集』を読んだのでその感想を書いていきたいと思います。

「奇譚集…。え、奇譚ってなんだ!?」

それがこの本を知ったときの最初の感想です。

初めてこのタイトルを見たとき、なぜか「江戸時代の昔話を集めた話なのかな??」って勝手に想像していました笑

意味を調べてみると、

奇譚…珍しい話、不思議な話。

「goo国語辞典」より引用

めちゃくちゃ簡単な意味でした…。

でもこの意味を聞いたとき、「なるほど、確かにこの本は奇譚集だわ」って納得しました。

というのもこの本は、5つの“不思議な話”から成る、短編集だからです。

肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却……。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」。見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消されたものたちの不可思議な運命を辿る心に深く響く5つの物語。

『東京奇譚集』背表紙の説明より

具体的には

  • 偶然の旅人
  • ハナレイ・ベイ
  • どこでありそれが見つかりそうな場所で
  • 日々移動する腎臓のかたちをした石
  • 品川猿

の5つです。

個人的には「偶然の旅人」が一番好きでした。「品川猿」も面白くておススメです。

今回は感想というよりも、心に響いたフレーズを中心に紹介していきたいと思います。

かたちのないものを選べ

まずは「偶然の旅人」に出てきた主人公の、以下のセリフです。

「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらを選ばなくちゃならないとしたら、かたちないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突き当たってきたときにはいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見ればそれが良い結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね」

引用元:『東京奇譚集』pp34

ここで「偶然の旅人」のあらすじについて、簡単に紹介したいと思います。

自分がゲイであることが原因で仲たがいした姉を持つ主人公。彼はある日、姉と同じところにほくろがある女性と出会う。そして彼女と最後に会うこととなった日に、彼女に乳癌の疑いがあることを告げられる。そんな女性との出会いから、久々に姉に電話をかける決心をした主人公。そして姉と10年ぶりに会話しお互い理解しあえるようになる。そんな中、姉から明日乳癌の手術をすることを伝えられる…。

という感じのちょっと不思議なストーリーになっています。

村上春樹の文章ってストーリーを要約するのがめちゃむずいです…。
村上春樹の文章はストーリーもさることながら、その巧みなレトリックに引き付けられます。その分、素人がストーリーを要約しただけではどうしても淡白になっちゃうし、魅力もうまく伝えられないんですよね。なのでもしよかったら本書を買って原文を読んでみてください!

話を戻します。

乳癌の疑いがあると知った女性はそのことが恐くて、まだ夫にさえも伝えられなかったといいます。

そんな女性に対して、主人公は先ほどの言葉をかけます。

しかしこの主人公からもらった言葉にもこのように返します。

「そう言われても、今の私にはよくわからない。いったい何にかたちがあって何にかたちがないのか」

引用元:『東京奇譚集』pp34-35

そうですよね。これはなかなか難しい表現で、読む人によってもさまざまな捉え方のできる部分だと思います。
ここからは僕がこのセリフを読んで思ったことを書きます。

ここからは非常に長くなるので、僕が出した最終的な結論だけ先に述べておきます。

“かたちのあるもの”は今までの経験で自然と自分の中で形作られたもののことで、“かたちのないもの”は、いままでの自分にはない、新しいもののことを指す。今その二つが天秤にかけられたとき、“かたちのないもの”を取るべきだという。これは新しいことが達成できそうなときに、そこで妥協せずに(今まで通りの自分でいるんじゃなくて)果敢に挑戦しようというメッセージだ。“かたちのないもの”は簡単には手に入らないし、目に見える成果がわかりにくい。けれども、“かたちのないもの”を選択し、それを“かたちのあるもの”にしていくことが人生をより良い方向に導いてくれる。そういうメッセージだと感じた。

ここからはそう思った理由を書いていこうと思います。
長ったらしいので、飛ばしても大丈夫です!

“かたちのないものを選べ”

これを見てまず、かたちのないものって何だろうって考えました。

成功、時間、感情、思い、アイデア、愛、友情、知識、平和…

こんなところでしょうか。

どれもなんだかスケールの大きいもののように感じられます。

じゃあ逆にかたちがあるものは?

いす、パソコン、リンゴ、家、木、ペン、地球、月…

我々の目で見みえるものはなにかしらの“かたち”がありますから想像しやすいですよね。

違いは何でしょうか。

僕は始め、ベタな考えではありますが、

お金で買えるか否か

っていう違いかな?って思いました。

かたちあるものは例外なくお金で買えると思います。

というより正確には、お金という尺度を用いて、ある程度価値を決めることができると思います。

よく考えれば地球だって“地価”はある意味、地球の価格だし、月だってルナー・エンバシー社によって1エーカー3000円で売られています笑

だから“かたち”があれば、それ相応の“価格”によって価値を付加することはできます。

逆にかたちのないものは基本的にお金で買えません。

要するに、
かたちがあるもの→お金で買える
かたちがないもの→お金で買えない
ってことです。

話を戻します。

主人公はかたちのあるものかたちのないものを選ぶとするならば、かたちのないものを選べっていってるんです。

この文の前提として、お金で買えない、かたちのないものが選択肢にあるんです。

選択肢にかたちがないものがあったら、それは選ぶべきですよね。

例えばいつでも手に入れるものめったに手に入る機会のない限定品とで選べって言われたら、限定品を選びますよね。
それと同じイメージです。

もう少し具体的に話すと、かたちがないものが選べる状態というのは、それ(かたちがないもの)が実現可能の射程圏にあるってことだと思います。

うまく表現できないな…。

そもそもかたちがないものって簡単に手に入るものじゃないですよね。成功だって平和だって友情だって簡単には得られません。でももう少し頑張れば、成功できるかもしれない、平和になるかも、仲良くなれるかも!ってなったら頑張るべきだと思いませんか?
そんな貴重なチャンスを、かたちあるものを選ぶことで逃すのはもったいないと思います。

そしてここまで考察してみると、この本文で言われているかたちあるものって実は、

今まで蓄積されてきたもの

っていう意味なのかなって思いました。

例えば、
・今までの人間関係
・今までの知識
・今までの発想
とか。

確かにこれらは目に見えませんが、自分の中である程度“かたち”がありますよね。

一方で未来のことは何が起こるかわからず、“かたち”がないですよね。というか正確にはこれから自分たちで作るものですよね。

要するに、

かたちがあるもの→過去、保守的(古い/従来の/いままでの)

かたちがないもの→未来、革新的(新しい/挑戦)

こういう流れで冒頭の結論を出しました…。
なかなかうまく表現しきれないところもありましたが頑張って記述してみました。
みなさんはどう感じましたか?

僕はいつも“かたちのないもの”を選びたい!とは思っています。

でもそれを得るにはそれ相応の努力や決心が必要で、なかなかうまくいきません。

なので改めて、この一文を心に刻み込むことで、“かたちのないもの”を選んでいけるように頑張りたいと思いました。

嫉妬の気持ち

もう一つは、「品川猿」に出てきた、松中優子のセリフです。

「嫉妬の気持ちというのは、現実的な、客観的な条件みたいなものとはあまり関係ないんじゃないかという気がするんです。つまり恵まれているから誰かに嫉妬しないとか、恵まれていないから嫉妬するとか、そういうことでもないんです。それは肉体における腫瘍みたいに、私の知らないところで勝手に生まれて、理屈なんかは抜きで、おかまいなくどんどん広がっていきます。わかっていても押しとどめようがないんです。幸福な人に腫瘍が生まれないとか、不幸な人には腫瘍が生まれやすいとか、そういうことってありませんよね。それと同じです。」

引用元:『東京奇譚集』pp208-209

このセリフは個人的に刺さりました。

ここでこのセリフを発している松中優子は、美人で頭もよく、誰もがうらやむようなそんな人です。

そんな彼女からこのようなセリフが発せられたのです。

才色兼備でむしろ、嫉妬“される側”であろう彼女から嫉妬することの辛さが語られる、そのことに意味があると思います。

そして彼女はその週末に自殺してしまいます…。

嫉妬って「相手に対して引け目を感じる」という感情の表れである以上、相対的で客観的なもののように思われます。

人は他人の持っている、自分にないものにあこがれる傾向があります。

それは完璧な人間だって同じことです。

スペックが高い人が、必ずしも嫉妬しない!というわけではない
ということです。

結局は嫉妬の感情は「折り合いのつけよう」だと思います。

どんなに容姿が悪かろうが頭が悪かろうが、自分に自信をもっている人は嫉妬をしません。

逆にどんなに容姿が良くても頭が良くても、自分に自信がなかったり、プライドが高すぎる人っていうのはどうしても嫉妬しがちです。

どっちが幸せかといえば、やっぱり自分に自信を持ている方だと思います。

背伸びせずにありのままを受け入れる。

もちろんプライドを高く持って、向上心をもって生きていくのも時には大事です。

そうすることで自分の成長にもつながりますし。

ただ、ずっとそうやっていると疲れちゃうしそれこそ松中優子みたいに死まで追いやられるかもしれません。

そういう意味でメリハリをもって自分をコントロールすることが大切です。

まとめ

ということでこの本で響いた言葉を中心に本の紹介をしてみました。

こういう短編集は記事を書くのがなかなか難しいです…。

興味を持ってもらえた方はぜひこの本をチェックしてみてください!

2020/12/23

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