こんにちは、カイトです。
今回は沢木耕太郎さんの深夜特急1の感想を述べたいと思います。
この作品は、主人公の私が一人で乗り合いバスだけで、デリーからロンドンへ向かおうとする物語である。『深夜特急1』では、香港とマカオでのストーリーがメインとなっている。本書によると私の取った東京₋デリーの格安チケットでは途中2か所だけなら立ち寄ることができるため、私は途中で香港とバンコクに立ち寄ることにした。そのため本書は香港とマカオでの出来事がメインになっている(しかし第一章はデリーでの話になっている)。
この本は沢木さんが実際の体験がもととなってできていますが、この度の舞台となったのは1970年代です。
僕はもちろん生まれているわけもなく、僕の両親がちょうど生まれたくらいのときです。
そんな時代に海外への一人旅。
今の時代でも一人で海外旅行には行けますが、どう考えても50年前と今ではスリルが違いすぎます。50年前はスマホもなければ、現地の情報も今よりも確実に少ないはずです。そんな時代に一人で海外に行くスリルは計り知れません。
そしてその旅での出来事をありありと文章におこしているわけですが、
読者の僕までそのワクワク感や緊張感が伝わってきました。
私がマカオで大小をやっているシーンは僕も読んでいくうちに自然と気持ちが高まってしまいました。
大か小か。あるいはゾロ目なのか。
たかがそれだけなのに、それにお金をかけ、真剣になっている人がいる。
その場に僕はいないのに沢木さんの文章を読んでいると本当にありありとその場面が頭に浮かんできます。そしてその場の緊張感が伝わってきます。
香港には、光があり、そして影があった。光の世界が眩く輝けば輝くほど、その傍らにできる影も色濃く落ちる。その光と影のコントラストが、私の胸にも静かに沁み入り、目をそらすことができなくなったのだ。
引用元:「深夜特急1」pp95
これは当時の香港をとても端的に表している表現だと思います。
もちろん僕はこの時代の香港に入ったことはありませんが、イギリス領として急速に発展していく中、貧富の格差が広がっていったことは想像に難くありません。
この文章で、そびえたつ高層ビルの影には庶民の暮らしがあるということを思わせます。
また、こういう旅は現地の優しさに触れるというエピソードというのが存在します。
僕の思うこの本での心温まるエピソードは、
私がペンキ屋の若者に奢ってもらった場面です。
香港の筲箕湾近くの屋台で歩いていると、現地の職を失っている若者に話かけられた。仲良くなり、一緒にソバ屋でソバを食べるも、彼はそばを食べ終わると、店のオバサンに中国語で何かを話してから、グッバイといって料金も払わずに帰ってしまった。
もちろん金は私が出すつもりだったから構わないが、礼のひとつくらいあってもいいものではないだろうか。見事な手際でタカられたことにがっかりしながら、エリザベス女王の肖像が刻まれているコインを取り出した。
ところが屋台のオバサンはいらないという。初めは私が外国人だからサービスをしてくれているのかと馬鹿なことを考えたが、そうではなかった。オバサンや客の必死の身振りでようやく理解したことによれば、ペンキ屋の彼がこういって立ち去ったらしいのだ。明日、荷役の仕事にありつけるから、この二人分はつけにしてくれ、頼む…。私は失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。自分が情けないほどみじめに思えてくる。情けないのはおごってもらったことではなく、一瞬でも彼を疑ってしまったことである。少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしらのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。
引用元:「深夜特急1」pp101
また個人的には、一度やめようと決意したはずのカジノを再びやりに行くシーンが印象的でした。
カエサルの名言、賽は投げられたという言葉ですが英訳すると、
The die is cast
となります。
このdieはdiceの複数形ですが、私はこのdieをdie(死ぬ)という意味と掛けます。
いや、賽を投げるとは、結局は死を投ずることだと言われているような気がしてくる。DICEはDIE、賽は死と…。
その瞬間、私は得体の知れない荒々しい感情に突き動かされそうになった。私は慌ててベッドから跳び起き、バックをもって部屋から出た。
引用元:「深夜特急1」pp169
そうして再びカジノに明け暮れるのです。
また沢木さんは、あとがきの部分で面白いことを書いています。
一人じゃないとだめなんです。…
…たとえば一人旅だった『深夜特急』の時は一年余りの旅で三冊分も書くことがあったわけですよね。ところが友達と一緒だとあまり書くことがなくなってしまう。以前、友人たちと一か月ほどスペインを回ったことがあったんだけど、その時の経験は、一行だね。「面白かったな」と。ただそれだけ。
引用元:「深夜特急1」pp227
僕は大がかりな一人旅はしたことがありませんが、言いたいことはすごくわかります。すべて一人でやるからこそ、思いがけない出会いがあり、物語として残っていく。
一人旅にはそんなロマンがありますよね。
僕もいつかしてみたいです。
2020/7/29