はじめに言っておく。
これは怒りの叫びではない。悩みの声である。
僕は待っていた。待っていたのはもちろんゴトーではない、先輩である。
その日はいつもバイトでお世話になっていた先輩と久々にご飯に出かけることになっていた。
僕より一学年上の上の先輩は就活にバイトにで大忙し。
その日も先輩のバイト終わりの18時に待ち合わせることになっていた。
僕は夕方になるとのそのそと支度をし、満を持して待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所に着くと、今日はどんな話をしようかな?就活の事情なんか聞いてみようかな?なんて考えたながら待ち合わせ場所でのんびり待っていた。
なかなか現れない先輩。バイトが長引いているのかなと思いとりあえず待ち合わせ場所の詳細な位置を送ってみる。
“○○の二階のエレベーターの横で待っています! バイト終わったら連絡ください!”
待ち合わせをしていたであろう子と合流していく人たちを横目に当てもなくTwitterをスクロールする。なかなか更新されないTwitter。
今月の携帯の使用ギガは超えていて、低速モードのスマートフォンを恨めしく思う。
そこで嫌な予感が脳裏に浮かぶ。そのとき待ち合わせからすでに30分は経過していた。
“まさか僕のスマホの通信が重すぎて、LINEが先輩に届いていないのだろうか……”
思わず二階から身を乗り出し、先輩が待ち合わせ場所の一階で僕を探していないの確認してみる。やはり見当たらない。
さすがに通信が重すぎるスマホを片手に同じ場所にいるのも苦痛になってきた。
とりあえず近くの本屋で時間を潰そう。
“バイトは結構長引いている感じですかね??とりあえず○○の本屋で時間潰しています!”
そう送信し、予約していたお店からも電話が入ったため友人と合流出来ていない旨を伝えキャンセルさせてもらった。
先輩の忙しそうだし、時間も遅くなるとあれだから合流出来たらラーメンでも食べようかな。そんなことを考えながら本屋をぶらぶら。
コロナ過で多くの飲食店が20時には閉まっているため、ゆっくり夜ご飯も食べられない世の中を軽く恨む。
ぶらぶら歩いていると、一昨日来た際に在庫はあるもののなぜか書棚にはないと言われていしまっていた本を発見。
ラッキー!なんて思っているとスマートフォンの着信が鳴る。僕は慌てて出る。
「ごめん!一日間違えてた、ほんとごめん!!」
“……ええーまじすかー!”
僕は3秒ほど心の中で叫んだ。そして思った。
“この局面、どう返答するのがいいんだ!!笑”
先輩はバイトでも色々指導してもらっていたし、ご飯なんかもよく奢ってもらっていていつもお世話になっていた。
ましてや就活でバタバタしていたのもあって予定もだいぶタイトに組まれていたことも容易に想像がつく。
先輩に悪意がないことは容易に想像がつくし、怒りも全くない。
念のために言っておくがこれがほとんど面識がないような人だったら僕だってイラっとする。
今回は大好きな先輩だからこその、この気持ちだ。
だから困った。どう返せばこの気持ちが伝わるんだろうか。
これが同級生とかだったら、「何してんねん!きい付けや~」なんて軽く笑い飛ばせたがさすがに先輩にそれは言えない。ましてや電話越しである。
“そんな謝らんといてくださいよ!”
心の中でそう言うものの、先輩の気持ちもわかる。
自分が逆の立場だったら、まあ謝るしかない。
頭の中で色々考え、先輩の顔色を勝手に伺いながら返答をする。
「全然大丈夫ですよ~!気にしないでください!!」
いや今の言い方、トーン、棘なかったかな?気休めじゃなくて本当に大丈夫なんだけど、伝わったかな??
考え出したら止まらない性格である。こういうときに豪快に笑い飛ばせるような人を羨ましく思う。
これ以上電話をしてもお互いきつくなるような気もしたので
「また行きましょ~!連絡しますね!!」
そういって電話を切った。電話はムズイ。
僕は電話をする前に見つけた本をそそくさと購入し帰りの電車に乗った。
“ここは一発、今日の話を肴に飲みにでも行こかな”
“いやあんた、そう言って先週もしこたま飲んでがっつりお金使ったじゃんか”
頭の中で天使と悪魔が囁いてくる。こんな時、僕の悪魔はいつも頭の右側にいる。
結局僕は、帰りにスーパーに寄り、半額の鉄火巻とビールを購入した。
そして今この記事をほろ酔い気分で書いている。
僕は待っていたのはゴトーじゃない、先輩だ。
先輩はきっとくる。そして今度こそご飯行くんだ!
あれ、そういえばゴトーって結局来るの来ないの?
実は読んだことがない、『ゴトーを待ちながら』。
タイトルと不条理小説だっていうことしか知らない。
勝手にタイトルをお借りしました、すいません。
これは今度読んでみるしかないな。
2022/2/24